【チューバ】難しいパッセージを「ゆっくり丁寧に練習する」ということ【金管楽器】

ある曲を吹こうとした時に、音楽性以前に「楽譜をちゃんと音にする」所でつまずきやすいのが
チューバの…というより金管楽器全般の難しいところですね。

これに対する解決策はもうとにかくゆっくり・丁寧にたくさん練習する以外に僕はないと思いますし
どの先生だってそう言うと思うのですが

その”ゆっくり丁寧に”っていうのは具体的にどういうやり方があるか、というのを僕なりに説明したいと思います。

曲は頭で吹く


当然こういう意味ではありません。
頭の中に「これからこういう音を出す」というものをしっかりと描いた状態で演奏に当たるべし!という意味です。

例えば、ドラマや演劇の役者さんで考えてみて欲しいのですが
台本を見ながらそのまま収録や舞台に立ってしまう人はいませんよね?
セリフや段取りを覚えて、それをどういう間や口調で言うとか考えて
その上で本番…いや、おそらく稽古の段階からそのレベルで臨むわけですよね?

この「台本」に当たるのが僕らにとっては「楽譜」だと思います。
難しいパッセージだという認識だけで、問題の音がドなのかレなのか、考えてみたらそれも言えないという人、結構います。

僕も譜読みが甘いまま本番を終えたり録音してSNSにアップしたりしてしまうことは多々あるのですが
やはりこれってよくないです。

なんとなく指が勝手に動くとか、なんとなく高い音の口や低い音の口で体が覚えている…というのは
演奏を控えた者の準備として少し頼りないものだと思います。
大抵そういうのはド緊張の本番で自分を裏切ってきます実体験です

チューバはどうしても吹いてるうちに頭がボワーっとしてしまうものですから
実際の本番に楽譜を持ち込むかどうかというところまでは言及しませんが
どちらにしても「楽譜がなきゃ全然吹けなくなる」というのは問題です。楽譜はあくまで”カンペ”だと思うべきです。

しっかりと楽譜を頭に入れ、その先の音楽的なパフォーマンスの研究まで行くことが譜読みの目的である
というのが僕の基本方針だと知っていただいた上で、以下をお読み下さい。

その①簡単に出来るレベルに一旦落とす

こちらはチューバの人おなじみ、K.ペンデレツキのカプリッチョ(Krzysztof PENDERECKI: Capriccio)の1節です。
うっ、頭痛が…なんて人もいるんじゃないでしょうか。
始まって4段目にして大変難しいパッセージと言えます。
(僕が作成した楽譜なので細かな臨時記号の表示やアーティキュレーションなど違うでしょうが、まぁそこは混乱のないようにお願いします。)

低い音も高い音もある、こういう跳躍の激しいパッセージを見ると
「何か良い跳躍の基礎練習ありませんか?」と話を壮大にしてしまう人がいますが
実は基礎力やテクニック云々の前にシンプルに音が取れていないだけという点を見つめるべきです。

ただ、音域が広すぎて歌で歌うことも困難ですから
自分で音が取れているかどうかを判定する上でこういうパッセージは非常に厄介です…

そうだ、それならオクターヴを変えちゃえばいいじゃあないですか。

このように、高い音は下げ、低い音は上げて、自然な上行、下行を描くように変えてみました。
これを見てしっかり音をとって歌ってみせることは出来ますか?
もし出来ないなら大問題です!…ウソウソ、これだって決して簡単なことじゃないですよ。

ただ、これでも出来ないならやっぱり本来の楽譜の方なんて勿論出来るわけないですよね?

慣れないうちは実際に楽譜に書き写すのも良いでしょうが、このぐらいの処理は頭の中でしてしまうのもオススメします。
それだけ1音1音を意識することになりますし、ソルフェージュの訓練も兼ねるはずです。

今作ったこの楽譜を基にして、次へ続きます。

その②バリエーションをもって練習する

「スラ―」や「スタッカート」など、その音をどんな風に出してほしいかを指示するアーティキュレーションは
時としてその組み合わせによってパッセージの難易度を更に上げます。

しかしまあ、なんてことはない。それなら全パターンここで練習してしまえばいいのです。

このように、もう半分機械的に、全部一色のアーティキュレーションに塗り替えて1回とします。
ここからは個人で応用するところになりますが、

一例として
①スラ
②ノータンギング
③タンギング(特にアーティキュレーション記号なし)
④スタッカート
⑤アクセント

といった風にバリエーションを付ければ1セットで5回そのパッセージを吹いたことになり、
アーティキュレーションに対しての感性も磨けて、基礎練習を兼ねることもできます。
ある回は極端にフォルテで吹いたり次はピアノで吹いたり、と強弱を組み合わせても良いでしょう。

これを、例えば「暗記した上で、上記の5パターンノーミスで通して吹けたらクリア」という風にゴールを明確にすれば
漠然と繰り返すよりフレッシュな気持ちで数を重ねられますし、クリアした時の「ちゃんとやったぞ」という実感が得られると思うのです。

しかし忘れてはいけないのが、演奏しようとしている曲の楽譜はそもそもこれじゃないということですね。

さて、そろそろ本来の楽譜に戻していきましょう。

その③少しずつ難しくする

ここまでの内容でしっかりストレスなくこの音程の並びを理解することに成功したら実はもう少しですよ。

1個ずつでもいいので、本来高い音を高く…

または、本来低い音を低く…

少しずつ少しずつ本来の楽譜に近づけていきながら、その②でやったバリエーションを交えて練習していきましょう。

大事なのは急にやり方を変えないということです。
山の頂上が見えてきたからってダッシュしない。ここまで来た歩みを粛々と続けましょう。
音がしっかり頭の中で鳴っているのを確認しながら、無理なく身体がその音を出す感覚を得るのです。

きっとある日、それを横から見ていた誰かが
何でそんな簡単そうに吹けるの?天才?」って言ってきますよ。

「そうだよ」って言いましょう。
そう言えるようになりたいと、思いませんか?

その④テンポだって当然ゆっくりから!

今回は一例として跳躍の大きいパッセージで紹介しましたが、本来「難しいパッセージ」といっても色々あるわけで、
他には16分音符等で真っ黒の、細かく速いパッセージというのもあるでしょうが、
結局は「簡単なところからやる」という点で一緒です。

メトロノームでテンポを60とか、50とか、とにかく「そりゃ出来るよ」ってぐらい、
いや「もう勘弁してくれ」ってぐらい遅くしてしまいましょう。

その上で楽譜に書かれた音程や指示されたアーティキュレーション、強弱などの色んな情報をしっかり盛り込んだ演奏
5回連続で成功したら1目盛り(電子メトロノームなら5ずつとか)速くする…なんていかがでしょうか?

よく、とりあえず音をパラパラっと吹けるようになってから諸々の演奏記号を見直す人がいますが、
僕はそれって完全な二度手間だと思います。

楽譜の情報を全部表現してこそ完成された演奏です。
どんなに遅くてもそれが最大限出来る速度で突き詰めれば、あとはただテンポを速くするだけ!
目指す方向がシンプルになりますよね?

本当に仕上がっている人の演奏には
速くてもしっかりとそのスピード感がコントロールされている安定感や心地よさがあり、
そうやって音の一粒一粒にしっかり意識が張り巡らされているかどうかというのが積もり積もって
聴く人に与える印象の大きな違いになります。

相手がそんなに音楽を聴きなれている人じゃなくたって、
あなたのその丁寧にやった痕跡は無意識で感じてもらえる重要な差になると、僕は信じています。

終わりにー”効率よくやる”ということについて

先人がもたらしてくれた知識や道具を活かして、日々ものごとを効率的にする使命が僕らにはあると思いますが、
それは決して「時間をかけたら負け」というものではありません。

ここまで僕の書いたやり方は確かにたった1つのパッセージにたっぷり時間をかけるものです。
「ある日1つのパッセージに1時間かけてしまった」と言えば凄く遅々とした歩みにも感じるでしょう。

しかしその1時間でもってそのパッセージを捉えることに成功し
次の日からは違う場所を練習してもその間に出来なくなったりしないような、そのぐらい強固な情報を心身に取り込むことが出来るなら、その曲を準備する長い期間の中では”たったの1時間“でもあるわけです。

(勿論「絶対に今日この1回で終わらせる!」なんて思わないで下さいよ!出来なかったらまた明日、です。)

練習すればするほど上手くなれるとは限らないのが練習です。
一歩一歩のステップを極めて堅実に、しっかりとした成功体験として重ねてやがて高いレベルに行く…というのが
僕は「効率の良い方法」だと思っています。

そうやって技術的なことをクリアしてしまった身軽な状態で、
より音楽的であったり、カッコいいパフォーマンスにするにはどうすれば良いか?というアイデアを磨きましょう!

よければ是非、日々の練習の考え方に取り入れてみて下さい。
お読みいただき、ありがとうございました。

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